多汗症とは
多汗症は、手のひらや顔、頭部、脇の下、足の裏など特定の部位に過剰な発汗がみられる疾患です。全身にたくさんの汗をかく「汗かき体質」とは異なり、局所的に大量の汗が出ることが特徴です。この症状は、通常の体温調節のための発汗とは異なり、日常生活に支障をきたすほどの異常な発汗が生じます。
多汗症の発症率は比較的高く、特に手のひらの多汗症は有病率が約1%とされています。しかし、多くの人がこの疾患を正しく理解しておらず、適切な治療を受けられないまま生活しているのが現状です。
多汗症の症状
多汗症の主な症状は、特定の部位から異常な量の汗が出ることです。具体的な症状には以下のようなものがあります
- 筆記時に汗で紙が濡れ、答案用紙が破れる。
- 鉛筆やペンが滑り、筆記が困難になる。
- 他人と握手する際に手が濡れているため、恥ずかしさを感じる。
- パソコンのキーボードが濡れて操作が困難になる。
- 紙幣やレシートを扱う際に困難を感じる。
- 衣服に汗ジミができ、見た目に影響する。
- 公共の場で汗染みが気になり、精神的なストレスが増える。
- 靴が濡れ、不快感や臭いが発生する。
- 滑りやすくなり、歩行に支障が出る。
- 顔が汗で光り、見た目に影響する。
- 髪が汗で濡れ、整髪が難しくなる。
多汗症の重症度チェック
多汗症は、その症状の重さにより次のように分類されます
重症度 | 症状 |
---|---|
1 | 発汗を気にすることなく、日常生活を送ることができる。 |
2 | 発汗を我慢できるが、日常生活に時々支障がでてしまう。 |
3 | 発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がでてしまう。 |
4 | 発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がでてしまう。 |
多汗症の原因
多汗症の原因としては、自律神経の一つである交感神経の過活動にあります。発汗は体温調節のために行われますが、多汗症の場合は交感神経が過剰に反応し、必要以上に汗をかいてしまいます。
①交感神経の過活動
手掌多汗症の場合、特に頚部から第六肋骨までの胸部交感神経節が過度に働くことが原因とされています。この神経節は手のひらの発汗を制御しており、その活動が強くなることで異常な発汗が引き起こされます。
②遺伝的要因
多汗症は遺伝的な要因も関与しているとされています。家族内で多汗症の発症例が多い場合、そのリスクは高くなります。
③環境要因
環境や生活習慣も発汗に影響を与えることがあります。高温多湿の環境やストレスが多い生活は、発汗を促進する可能性があります。ただし、多汗症そのものの原因は環境要因ではなく、根本的には交感神経の過活動にあります。
多汗症の対処法
多汗症の対処法は、症状の重さや患者の生活スタイルに応じてさまざまです。以下に一般的な対処法を紹介します。
①一次治療
生活習慣の見直し
涼しい環境の維持:エアコンや扇風機を利用して、過度に汗をかかないようにします。
通気性の良い衣服の着用:吸湿性の高い素材の衣服を選び、快適に過ごせるようにします。
外用薬
制汗剤:塩化アルミニウムを含む制汗剤を使用することで、一時的に汗の分泌を抑えることができます。
②二次治療
投薬療法
抗コリン薬:交感神経の活動を抑える薬を服用することで、発汗を抑えることができます。ただし、副作用(口の乾き、便秘など)があるため、医師の指導の下で使用します。
③三次治療
ボツリヌス療法
ボトックス注射:発汗を引き起こす神経信号を遮断するために、ボトックスを注射します。効果は数ヶ月持続し、特に手のひらや脇の下の多汗症に有効です。
④手術療法
胸腔鏡下交感神経節切除術(ETS):手掌多汗症に対して非常に効果的な手術です。内視鏡を用いて胸部交感神経節を切除することで、過剰な発汗を抑えます。
当院では、ETSを実施しており、患者様の負担を最小限に抑えた低侵襲手術を行っています。手術時間は片側10〜20分程度で、当日入院・翌日退院の1泊2日コースが一般的です。片側ずつ手術を行うことで、代償性発汗のリスクを抑える工夫もしています。
※当院では手術療法は行っていません。必要な場合は医療機関を紹介させていただきます
多汗症診療・治療の流れ
Step1初診・カウンセリング
患者様の症状を詳しくお伺いし、最適な治療法をご提案します。
Step2診断・検査
多汗症の重症度や原因を正確に診断するための検査を行います。
Step3治療プランの決定
患者様の生活スタイルや希望を考慮し、最適な治療法を決定します。
Step4治療の実施
外用薬、ボトックス注射、ETSなど、選択された治療法を実施します。
Step5経過観察・フォローアップ
治療後の経過を観察し、必要に応じて追加の治療や調整を行います。